iPhoneアプリで食べていくのも楽ではないようです。
ネットの世界では、スマートフォンアプリを作ると儲かるよという情報があちらでも、こちらでも宣伝していますが、現実はそんなに甘いものではないということを、群馬県出身のプログラマー・RucKyGAMES(ラッキーゲームス)さんが記事にしてます。
かなり長い記事ですが、つまみ食いの引用では本質をとらえることができずに、単に儲かる商売ととられかねないので、ITmedia ニュース 7月21日(土)13時59分配信すべてを転載引用しています。
要は趣味で作ってそこそこの収入を得るには旬の今がグットなタイミングですが、本業で頑張るには努力だけでは無理ということです。
当たり外れが激しく、大ヒットするものは100万を超えるが、ダメだと100ほどしか出ないことも。収益の9割を、1割のゲームが稼ぎ出しているという。
ぐんまのやぼう。画面上のねぎ、こんにゃく、キャベツをタッチで収穫して「G」(GUNMA)をため、ほかの都道府県を群馬県に変えていく
日本中を群馬県にしてしまうスマートフォン向けゲーム「ぐんまのやぼう」がヒットしている。
5月初めの公開から2カ月で60万ダウンロードを突破。関連グッズが発売されたり、開発者が群馬県の観光特使に任命されるなど、アプリの枠を超えた盛り上がりを見せている。
開発したのは、群馬県出身のプログラマー・RucKyGAMES(ラッキーゲームス)さん。
スマートフォン向けアプリからの収入だけで生計を立てている、自称「ネオニート」の28歳男性だ。
RucKyGAMESは彼とデザイナーから成る2人チームの名称だが、企画やプログラミングなど仕事の大半を、彼がこなしている。
これまで作ったアプリの数は約110、合計ダウンロード数は約600万。
思いついたらすぐ作る、できることは何でも試すという軽いフットワークで、ゲームを作り続けてきた。
100万ダウンロードを超えるヒットアプリもあり、著書も出しているが、名前を売りたいとか、人気クリエイターになりたいといった野望はない。
技術力にも自信がなく、ただ「ひっそりしていたい」という。
「早くサラリーマンの生涯年収を貯めて引退したいです。家賃収入で暮らすとか、あこがれます。働きたくないです、可能なら」
●「やばいなって」 アプリ開発を独学
小さいころからゲーム好きで、ゲーム開発に携わるのが夢だった。
高校卒業後に上京し、専門学校でプログラミングを学んだが、「授業を無視して、1人でゲームを作ってました。友達がいなくてつらかった……。
本当、学校に行きたくなかったです」と振り返る。
専門学校卒業を待たず、ゲーム開発会社にプログラマーとして就職。
ニンテンドーDS向けゲームなどを手がけたが、すぐ限界を感じた。
「自分にはプログラミングは向いてないと思いました」
iPhoneアプリを作り始めたのは2009年5月ごろ。
DSの失速で、会社が受託する仕事が減り、「この会社、大丈夫かな」と危機感を覚えてたという。
「仕事がない状態が1年ぐらい続いて、やばいなって。
転職するにもプログラミングの実力が伴っていない。
自分でできる範囲で、何か作っておいたほうがいいのでは、と」
Flashゲームを作ってひっそり公開してみたり、携帯アプリにチャレンジするものの機種依存の壁に挫折したり、Xboxのインディーズゲームを作ろうと準備するも、国内サービス開始が遅れたりしてできずにいるうち、iPhoneアプリが流行りはじめた。
「アプリを作ろう」と思い立ち、09年4月、MacBookとiPod touchを購入。アプリ開発を独学で学び始めた。
●初のアプリ「i刺身LITE」に大反響 「App Storeで一番アプリを出している個人開発者になりたい」
Mac購入から1カ月ほどで、最初のアプリをリリースした。
「i刺身LITE」(無料)だ。
つまらない仕事の代名詞「刺身にたんぽぽを乗せるだけの簡単なお仕事」を再現したゲームで、一定のスピードで右から左に流れてくる刺身の写真をタッチし、黄色い“たんぽぽ”(食用菊)をひたすら載せていく。
企画から制作まで約2時間。
App Storeのアプリ審査の流れを知るためだけにお試しで作ったゲームだったが、有名ニュースサイトに取り上げられるなど話題になり、App Storeのエンターテインメントランキング1位に。「びっくりしました」
だが無料アプリはいくらダウンロードされてもお金にならない。
有料アプリを売らねばと、パズルゲームなどを作って販売してみるも鳴かず飛ばず。
「当時はiPhoneユーザーもまだ少なく、115円のアプリを買うのが、缶ジュースを買うよりも敷居が高い市場でした」
人気アプリの有料版ではどうかと、「i刺身LITE」に、横になったペットボトルを縦に直すなど無駄なオプションを追加し、「i刺身」として発売。「バイオハザードと同じ値段でAppStoreに並んでいたら面白い」と、800円で出してみた。
多くのメディアに取り上げられ、「価格設定がふざけている」という狙い通りの評価を得たものの、売り上げでは大敗北。
「あれだけ記事で紹介されたのに、あそこまで売れなかったアプリはなかなかないと思います」
それでもあきらめなかった。
「App Storeで一番アプリをリリースしている個人開発者」という地位を獲得しようと、「1カ月に最低1本作る」というルールを自分に課し、1カ月に1~5本のハイペースでゲームやパズルのアプリをリリースし続けた。
そして09年7月、ついに有料ヒットアプリを生み出した。
トランプゲームの大富豪で遊べる「i大富豪」(09年7月発売、当初115円、現在85円)だ。
当時、App Storeランキングで総合2位を獲得。自動販売機のジュースを買うのすらためらう彼にとっては、「正直、引くレベル」の売り上げだったと当時を振り返る。
「給料より多いお金が入ってびっくりしちゃった。見慣れない数字で、どうしようと」。i大富豪はこれまでの3年間で、約5万本売れている。
機能を絞った無料版を出すことで、有料版を宣伝するという手法にもチャレンジ。
i大富豪の無料版「i大富豪LITE」を出してみたところ、有料版の10倍もダウンロード数を獲得した。
だが同時に、有料版の売り上げがガクンと落ちてしまった。
●有料版より「無料+広告」
ちょうど、無料アプリに広告を配信できるサービスの日本語版が出始めたころ。
試しに「i大富豪LITE」に広告を載せたところ、1日当たりの広告収入が有料版の売り上げを超えた。
ほかの無料アプリにも広告を載せてみると、長期的には有料版の販売金額より良い数字が出た。
有料アプリの場合、購入時に収益が発生するが、その後のアップデートは無料のため、長期的にメンテナンスするほど割に合わなくなってしまう。
一方、無料+広告のアプリは、広告をクリックした際に収益が発生するため、ダウンロードした後遊び続けてもらうほどもうかる仕組み。
アップデートを続けるメリットも出てくる。
RucKyGAMESさんは現在、ほとんどのアプリを無料で作り、広告を入れている。
リリース済みの無料ゲームに別のミニゲームを追加したり、自作のゲームを宣伝するページへのリンクを加えるなど、アプリの起動率やダウンロード数を上げるべく、さまざまな工夫を続けている。
「実験できることは、いろいろやってみています。コストがかからないので」
●会社を辞めるのは「怖かった」
iPhoneアプリだけで何とか食べていけるめどが立ち、10年3月末、勤めていた会社を辞めた。
会社がiPhoneアプリ開発に参入することが決まり、自分の副業とかぶってしまうことを恐れたという。
辞めるのは「怖かった」が、働かなくても1~2年は食べていける貯金があったので腹をくくった。
「会社で作っているものを、自分個人でリリースしたくなったら嫌だなぁ、と。
会社は有料アプリを出すつもりでしたが、自分の経験から、有料アプリは企業規模だとペイしないって分かっていたし。会社の人からは、逃げたと言われますが……」
ニート……もといフリーランスになった今は、会社員時代よりハイペースでアプリを作れるように……と思いきや、そうでもないらしい。
「会社を辞める前の方が頑張ってました。仕事終わりの短い時間や休日に集中して頑張るという感じで。今は時間が自由なのでその分ぼんやりして時間が無駄に過ぎています……」
●リリースしたアプリは110本、総DL600万 1割のゲームが収益の9割稼ぐ
退職後も「1カ月に最低1本」のルールは守り、1カ月に1~5本程度、作り続けている。
iPhoneだけでなくiPadアプリも作っているほか、今年からAndroidアプリ開発を学び、Androidアプリも出し始めた。
アイデアを思いつくと、熱が冷めないうちにすぐ作る。
これまでにiPhone/iPadで約90本、Androidで約20本リリース。
全アプリ合計で600万ダウンロードされた。
当たり外れが激しく、大ヒットするものは100万を超えるが、ダメだと100ほどしか出ないことも。
収益の9割を、1割のゲームが稼ぎ出しているという。
RucKyGAMESさんのアプリは、「i七並べ」のような定番のカード・パズルゲームと、「i刺身」のようなネタゲームに大別できる。
「仕事したくない」という思いを込め、テンポよく「ヤダ」(嫌だ)ボタンを押すだけのゲーム「ヤダヤダ」、“長く伸びるもの”同士を戦わせようと作ったゲーム「リーゼント vs トロンボーン」、
数字を順番にタッチするゲーム「Touch the Numbers」に触発されて作った、徳川家初代~15代将軍を順番にタッチするゲーム「Touch the 徳川」、
長ぐつなど魚“以外”のものを釣り、魚と交換する釣りゲーム「Freedom Fishing」(略してFF)、
ひよこのオスとメスをひたすら鑑別する「iヒナ マツリ」……ネタ系ゲームに個性が光る。
他社とのコラボレーションの話も来るようになった。
ハドソンから声がかかったときは「本当にびっくりした」。
ハドソンとのコラボ作品「僕とちくわと鉄アレイ」は、ちくわと鉄アレイが出てくるハドソンの名作ゲームから発想した、ちくわを飛ばして鉄アレイにはめるゲームだ。
「よく製作にOKが出たなという感じです。却下されると思ってました、ほんとに」
●一発ネタのつもりだった「ぐんまのやぼう」
「ぐんまのやぼう」が誕生したのは、知人が立ち上げた、47都道府県のアプリを作ろうという企画がきっかけだ。
群馬県出身のRucKyGAMESさんは、群馬アプリの開発に名乗りを上げた。
「でも群馬県は、これといった名産がなくて。例えば静岡ならお茶のアプリを出せばいいんでしょうが……」。
考えあぐねたあげく、県の名を世に知らしめるアプリを考案。
県内の市町村の形を当てたり、人口が多い順に市町村を並べるミニゲーム集(アプリ内の「ひまつぶし」で遊べる内容)を開発したが、「あまりに地味すぎました」。
追加要素を考えていたところ、たまたま日本地図の素材を発見。
「ほかの県が群馬県になったら面白いんじゃないか」と考え、群馬県の名産・キャベツ、ねぎ、こんにゃくを収穫して「G」(GUNMA)を貯め、日本中を群馬県化していく今の形に落ち着いた。
「本当は、畑を耕す機能とか考えてたんですが、作るのがめんどくさいし、そんなに面白くないだろう、と。“放置系”アプリならすぐ作れたので」
群馬県出身者のみで作るということにこだわり、グラフィックスもサウンドも、自分1人で作った。
作物を収穫するとき再生される「グンマー」という効果音は自分の声を加工して制作。
「群馬県人に知り合いがいなくて、頼める人がいなかったので……。実家の両親に頼もうかと思ったのですが、面倒だったので」
5月初旬のリリース直後からWebで話題になり、ネットのニュースメディアで続々と取り上げられたほか、中川翔子さんがブログで紹介したり、群馬出身の布袋寅泰さんがダウンロードしたとツイートするなど大きな反響があった。
「完全に一発ネタのつもりで、出オチでいいと思ってたので反響にびっくりしました。ここまですごくなるなら、もっとちゃんとやればよかった……」
その後も次々に機能を追加していった。
日本の制圧が終わると世界を、そして太陽系まで制圧できるようにしたほか、話題の「コンプガチャ」に触発され、群馬県の市町村カードを集めて“平成の大合併”を再現できる「合併ガチャ」を追加。群馬県の公式キャラクター「ぐんまちゃん」が県内の駅をめぐるすごろく機能も追加した。「1つのアプリでこんなに頑張ったのは初めてです」
「群馬県以外のバージョンも作ってほしい」という声を受け、任意の県で日本中を制圧できる「にほんのあらそい」も制作し、人気を博した。
ダウンロード数は、ぐんまのやぼうが60万、にほんのあらそいが40万に達したが、単体アプリで100万を超えた「i大富豪LITE」などに比べるとまだ少なく、App Storeのランキングでも「10位ぐらいが最高だった」という。
「話題にはなっても、みんな意外と落としてくれない。ランキングで1位や2位に入るのって、難しいなと思ってます」
●群馬県観光特使に 「何やればいいんだろう」
「特使をやりませんか」――7月初旬、ぐんまのやぼうヒットを知った群馬県庁観光課に呼ばれ、観光特使に誘われた。
「アプリを作って特使になったら面白い」と軽い気持ちで引き受けたが、「何やればいいんだろう」とちょっと不安に思っている。
ぐんまのやぼうのイラストをモチーフにしたiPhoneケースも発売された。
メーカーには、「売れなくても僕が怒られたりしないなら、どうぞ」と消極的にゴーサインを出したという。
自らのiPhoneに、ぐんまのやぼうケースを装着しているが、「前使っていたケースが壊れたころ届いたので」使っているだけ。「群馬県の形してるだけですからね……」
“ぐんまのやぼうの人”と思われがちなことに、最近は少し困惑している。
「あんまり群馬群馬思われたくなくて。本当は、ほかのアプリも継続して作っていきたいんですが、何かしら群馬のアプリをもう1個ぐらい作らなきゃいけない雰囲気があって……」
●「引退って、どうやったらできるんだろう」
仕事場は自宅。
通勤の必要もなく、仕事時間は自由に選べるはずだが、毎日忙しく、会社員時代よりもゲームをする時間が取れない。
会社員なら休日はたっぷり休めるが、今は「自分が止まったら終わり」。
休むとその分、損している感じがするという。
アプリがヒットすると、広告やグッズ販売などの問い合わせも増えるため、その分多忙になってしまう。
「もう少しのんびりできると思ってたのですが、全然できません。
仕事しないと生活ができなくなるという危機感で、追い詰められているので。
やらなきゃいけないけどやりたくない、という現実逃避以外では休めない。現実逃避の時間もけっこう長いんですが……」
受託開発で稼ぐフリープログラマーも多いが、RucKyGAMESさんは、アプリ制作一本で生きていく道を選んだ。
「頑張りたくなくて……。あんまりお仕事したくなかったんです。お仕事くださいって言うのも大変だし。アプリ制作は、作りたいものを自分で決められるし、誰かにダメ出しされることもない。ダメ出しは落ち込みます。
App Storeのレビューも、ひどいからんまり見てない。怖いので」
会社員時代より月収は増えたが、「自販機のジュースを買うのにもためらう」という生活レベルは変わっていない。
それでも不安は尽きないという。
「税金とかけっこう大きいし、銀行がつぶれたりして、無一文になったらヤバイ……。早くサラリーマンの生涯年収を貯めて引退して、ゲームは悪ふざけで暇なときに作るぐらいにしたいですね。引退って、どうやったらできるんだろう。働きたくないです、可能なら」
●法人化へ 「代表取締役という響きがほしいから」
RucKyGAMESは近く法人化する予定だ。デザイナーへの支払いがしやすくなるといった実務面に加え、「よくわかんないアプリを出しているRucKyGAMESが会社になったというシュールさが面白いし、代表取締役という響きがほしい」と思ったから
。法人化第1弾アプリで「変なことをやりたい」と考えている。
起業といっても、「もっと仕事がほしい」とか「上場したい」といった野望はなく、有名にもなりたくもないという。
「有名になったら大変じゃないですか。アプリはこれぐらい売れなきゃとか、有名になったなりのハードルがある。
そういうハードルをできるだけなくして、コケて当たり前でいたい。ひっそりしたいです」
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